第28回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2009年
第14回入賞作品

中学・高校特別賞

「『約束』! 私の夢は」 高見 わかな(18歳 女性)

 私は幼稚園の先生と卒園式の時に交わした約束を今だに覚えています。それはケーキ屋さんになることです。私は高校一年生の時にその夢を叶えることができました。始まりは一冊の求人雑誌でした。学校の帰り道、ひまな電車の中で読む為に手に取った求人情報誌を、私は何気なくパラパラとめくっていました。その時目に止まったのがケーキ屋のアルバイト募集の文字。少し手を止め考えて、私は求人情報誌に載っている電話番号に連絡しました。実はその時はまだ、幼稚園の先生との約束の事なんて少しも頭の中にありませんでした。
 数日後、私は無事にケーキ屋の面接に合格し、アルバイトを始めることになりました。仕事内容はシュークリームのカスタードクリームを作ったり、クッキーの生地を作ったり、ケーキのスポンジを焼いたり、チーズケーキを作ったりと、とても楽しいものでした。小さい子供の為にチョコレートのプレートに名前を書いてケーキに立てたりもしてましたが、その時に嬉しそうにありがとうと言ってくれる子供の笑顔が忘れられません。それを見て私はまた頑張ろうと思っていました。私はケーキ屋の仕事にどんどん打ち込み、毎日が充実していてキラキラしていました。
 それからしばらくして、ケーキが売れる冬の季節がやってきた時のことです。私がいつものようにケーキを並べたり、カスタードクリームをシュー生地の中に詰めていると、一人の女の人がやって来ました。他のお客様とはなんら変わりもなくケーキを選ぶ姿を見て私は、どこかで見たような気がするなあ…と思いました。じっとその女の人の顔を見ていると、その女の人も気がついて私の顔をまじまじと見つめてきました。そしてはっと気がついたように口を手で覆い、あら!久しぶりじゃない!覚えているかしら?嬉しそうに言いました。そこで私もやっと見覚えがあったわけに気づきました。その女の人は、私が幼稚園の時にお世話になった幼稚園の先生だったのです。私は驚きを隠すことが出来ずに思わず先生!と叫んでしまいました。仕事中だったので、あまり長くは話すことができませんでしたが、その時先生は私に、ケーキ屋さんになりたいってよく言ってたもんねえ。夢が叶ったようなもので嬉しいね、と言いました。そこで私は、そういえば幼い時に先生よくケーキ屋さんになって、先生においしいケーキを作ってあげるという、子供じみた約束をしたことを思い出しました。先生が嬉しそうにそう話すのを聞いて、恥ずかしくなりましたが、内心では私自身忘れていた昔の記憶を覚えていてくれたことが嬉しくて嬉しくて、その時のことは今でも忘れません。思いがけない所で叶うことができた幼い頃の自分の夢でしたが、その経験から私は約束の中に含まれる人と人との関わりの温かみを知ることができたような気がしました。先生が行ってしまった後、私はまたいつも通り、小麦粉と砂糖を手に取り、スポンジを作りました。いつも通りの道具と材料、いつも通りの変わらない手順と作り方で作ったスポンジケーキでしたが、そのスポンジケーキに込める気持ちだけは、いつもとは違っていました。
 その時の私のように、遠い昔の頃に交わした約束を忘れてしまっている人はどのくらいいるのでしょうか。私もたくさんの約束を果たせないまま、忘れてしまった約束がたくさんあるような気がします。そんな時、一度立ち止まって思い出してみるのも、未来の自分に繋がっていくのではないのかな、と思います。