第28回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2012年
第17回入賞作品

大賞

「アメリカ人のお客さんとの約束」 赤崎 悠奈(17歳 学生)

 二〇〇二年。小学校一年生になった私の家に、アメリカ人のお客さんが三人やって来た。以前、母がアメリカへ行ったときのホストマザーさんと、その孫二人。やたら大きな声で笑うメーガンばあちゃんは、たたみの上をスリッパで歩いていた。優しくて背の高いキャノンと、そのいとこで、当時中学生の大人しいエイブリー。彼女たちはセミのぬけがらを見て悲鳴をあげていたのを覚えている。彼女たちの行動や、聞いたことのない英語を話すのが、私には新鮮で楽しかった。「ずっと家に居てほしいな」そう思っていたのに、ある日学校から帰ると彼女たちはいなかった。
 時々、「今はどこにいるんだろう」と考えながら毎日を過ごし、私は中学生になった。突然、嬉しい知らせが舞いおりてきた。高校生だったキャノンが今、宮城県の南三陸町で中学校のALTをしているというのだ。
 キャノンは意外と近くに居た、それを知ってすぐキャノンは家にやってきた。彼女は度々遊びにきた。友達をつれて来ることもあった。外国人でも思っていた以上に共通の話題があることを知ったし、反対に文化の違いに驚くこともたくさんあった。
 私が中学三年生になった秋、キャノンはアメリカに帰ることになった。半年後に教え子たちの卒業式があるからまたこっちに来るよ、とキャノンは言った。二度目のお別れは約束があったから寂しくなかった。その先に何が起こるかなんて誰にもわからなかった。
 二〇十一年三月十一日。キャノンが私の家に来る二日前。すでに彼女は南三陸町にいるのかなと思いながら、体育館で卒業式の練習をしていた。突然、壇の上で強い揺れを感じた。地震だった。家に居た家族は全員無事だった。何週間かして、父や祖母も家は流されてしまったけど無事だとわかった。でも待って、キャノンは……?
 アメリカのメーガンやその家族も、連絡のつかないキャノンのことを心配して、地震の報道をテレビで見ていた。「避難所の中学校には、一緒にボランティアをしているアメリカ人がいますよ」というリポーターの声とともに「ハロー!」と笑顔でカメラに手を振るアメリカ人――キャノンの姿があった。パスポートなくしちゃった、と彼女は笑っていた。キャノンは無事だったのだ!
 その後帰国した彼女は、ボランティアのためたくさんのアメリカ人をつれて再び日本にやって来た。また会いに来るという約束を守ってくれたことが嬉しかったし、それ以上にまた会えたことに奇跡を感じた。その年の冬、キャノンのおばあちゃんであるメーガンが亡くなった、という知らせを聞いた。私、姉、母の三人は三月にアメリカへいくことになった。
 アメリカでは、キャノンやキャノンの両親、エイブリーやエイブリーの両親に会った。エイブリーとは十年ぶりの再会だった。大人しかった彼女はもう車の運転もできる大学院生になっていた。楽しい時間はあっという間で、お別れの時。空港で、母や姉は泣いていた。でも私は泣かなかった。また会おうねと約束したから。
 約束はもろいものだと思う。「また明日ね」と言ったって、明日突然具合が悪くなったり、約束を忘れたりするかもしれない。もしかしたら、明日が来ないかもしれない。だからキャノンが無事だとわかった時、約束を守れるということはあたり前じゃない、奇跡なんだと思った。私はこれから、奇跡に感謝しながら生きようと思う。それと同様に、もしかしたら、万が一……のことも考えて、自分も含めてまわりにいる全ての人を大切にしていこうとも思っている。