第28回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2012年
第17回入賞作品

佳作

「10年間の恋」 簗田 亮(17歳 学生)

 小さい頃私は、父方の祖父母と一緒に、今住んでいるところよりもずっと田舎に住んでいた。私の家の近くには、田んぼと畑くらいしかなく、少しはなれたところに数件民家があったくらいで、まわりは山に囲まれていた。今思うと、それこそ「トトロ」がいるんじゃないかってぐらいのところだった。山を一つか二つはさんだ向こう側には高速道路が通っていて、夜になってあたりが暗くなると、その山ととなりの山々のすきまから、車やトラックなどの光がもれてなかなか幻想的できれいだった。
 私には、ゆきという女の子の友達がいた。私の親は、彼女のことをゆきちゃんと呼んでいたが、小さい頃の私はどうもその呼び方に違和感というかはずかしさがあったため、ゆきと呼び捨てで呼んでいた。彼女は私のことを亮君と呼んでいて、毎日のように二人であそんでいた。すごい田舎だったため、お互いに友達が1人しかいなく、私たちはとても仲が良く、そして私はゆきに恋愛感情を抱いていた。ゆきの家と私の家ははなれていたが、ゆきの祖父の畑が私の家のちかくにあったため、ゆきは祖父の車に乗って私の家に遊びに来てくれた。
 ある夏に、私たちはタイムカプセルを埋めることにした。中に入れるものは、自分たちの宝物的なものと、未来の互いにあてた手紙にした。私たちは2人で、ゆきが母からもらってきたという手ごろなかりんとうの缶に入れて東原という原っぱに埋めた。目印に私が見つけた木の棒をさしておいた。そして二人で10年後にあけるという約束をした。
 ゆきはその1週間後に父の転勤を理由に引っ越した。実はタイムカプセルはゆきが引越すということで、二人の記念に埋めたものだった。私はそれから何年かあとに両親と父の実家を出て、今の家に来た。
 タイムカプセルを埋めてから10年後、私は忘れずに(一ヶ月くらい前に母に言われて思い出したが)タイムカプセルを埋めた場所へ行った。母の車で近まで行き、東原へ行ったが、ゆきはまだ来ていなかった。しばらく待ったがゆきは来なかった。その日は、近くの祖父の家に泊めてもらった。次の日もゆきは来なかった。引越す時、親同士で連絡先を交換していたが、最初の方こそ連絡は取り合っていたものの、もう8年以上連絡を取り合っておらず、ゆきの連絡先はわからなかった。私は約束を破られた悲しさと同時に少し安心する気持ちでいた。というのも、私はタイムカプセルに入れた未来の互いへの手紙にゆきのことが好きだという気持ちを書いていたからだ。もちろんその気持ちは今でも変わらない。しかしもう10年も経っているので、ゆきには彼氏がいてもおかしくないと思っていたからだ。
 約束の日から3日目、私はタイムカプセルを開けることにした。目印の木の棒はもうなかったか、だいたいの場所はわかっていた。で、すぐに掘り出すことができた。中を見た。入っていたものは当時のまま…ではなかった。中には2人の手紙と宝物、そしてもう一枚手紙が入っていた。ゆきからだった。そこには、ゆきがこのタイムカプセルを3年前に開けていたこと、そして父の転勤でオーストラリアに引越すことが書かれていた。そして最後にこう書かれていた。「亮君の手紙読んだよ。ありがとう。私の気持ちはあの頃からかわっていません」と。私はゆきの未来の(今の)私に向けての手紙を読んだ。その内容は私の手紙と同じだった。「好きです」
 ゆきは約束を破ってはいたが、ちゃんと覚えていてくれた。私はとてもうれしかった。
 今現在、私は幸せだ。毎日のようにパソコンでメールしている。今度、ゆきと日本で会う約束をした。その時が待ち遠しくてたまらない。忘れずに会いに行こう。