第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2023年
第28回入賞作品

優秀賞

私の机に置かれたものは 今井 寧音(17歳 高校生)

 私は小学生になるタイミングで両親に勉強机を買ってもらった。お店で自分が欲しいと思ったものを買ったのでとても気に入り、これからの学校生活は楽しみや希望で満ち溢れていた。しかし、この気持ちはすぐに幕を閉じるのであった。
 ある日、私の机に教科書が置かれていた。これは六歳年上の姉の教科書である。私が買ってもらった机は姉の部屋に置かれ、その日から姉と共同で部屋を使うことになったのだが、姉のものが置かれたのは初めてだった。姉も自分の机があるのにどうして私の机に教科書を置いたのだろうと姉の机をのぞき込むとすぐにその理由が分かった。姉の机は学校の教材やフィギュアなどのものであふれかえっていた。たしかに置く場所がない。私はしょうがないなと思いその教科書を静かに自分の机の端に寄せた。そしてこの日をきっかけに、私の机にはよく姉のものが置かれるようになった。
 別の日、私の机に塾のテキストが置かれていた。また姉のものだ。姉は中学三年生になり、高校受験を控えていた。ここ数日は夜遅くまで勉強していてとてもがんばっているなと尊敬しているが、許せないのが私の机で勉強していること。まあでも私は子供ながらに姉のがんばりを認め、静かにテキストを端に寄せた。
 また別の日、私の机に二つのかごが置かれていた。またしても姉のものだ。そのかごのなかには姉が高校生になり使うようになった化粧品や、スマホ関係のものが入っていた。私は我慢の限界だったが六歳も年上だと対抗しても自分が負けることは知っていたので、いつも通り静かに端に寄せた。
 さらに別の日、私の机に美容の本が置かれていた。姉は好きだった美容をより深く学びたいと考え、美容の専門学校に進学した。その専門学校は資格取得が盛んで、姉はいつも夜遅くまで勉強していた。しかし、そろそろ自分の机を一人で占領したいと思っていたが結局言えず、私はいつも通り姉のものを端に寄せた。
 またさらに別の日、私の机に何も置かれていなかった。今日は姉が引っ越す日だ。専門学校卒業後、県外の美容関係の会社に決まり就職先の近くで一人暮らしをすることになった。やっと自分の机を自由に使えると思った。その時、机の端に小さなメモが置いてあった。姉からの手紙だ。中を見てみると、「今まで何も文句言わず、机を使わせてくれてありがと。頼りない姉と違ってあなたはできる子なんだから自信持ってがんばってね。最後に家族をよろしく頼んだよ。」と書かれていた。私はさみしさと悲しさが込み上がり涙がでた。姉が私に対して感謝の気持ちを持ってくれていたことに胸がいっぱいになった。
 そして最後のお別れのとき、家族みんなで駅に向かい姉の姿を見届けることにした。姉は家族一人一人に感謝を伝え、次に私の番がきた。私は時間ギリギリまでたくさん話をした。今まで机を使われていたことに対しての不満、まったく部屋の片づけをしないことへの不満、そして手紙についての感謝など伝えられることは全て伝えた。最後に私は「もう私の机に何も置かれてないのさみしいから、ちょくちょく家に帰ってきてね。」と言うと姉はやさしい眼差しで、「うん、分かった。約束する。」と言って、東京行きの新幹線に乗り込んで行った。姉は手紙に、頼りない姉と書いていたけど私にとっては頼りがいのある努力家なお姉ちゃんだと思っているよ。別の場所でも姉らしくがんばってね。そして私は姉との約束を胸に、からっぽの自分の机を見つめた。