第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2023年
第28回入賞作品

佳作

約束を背負って走り続ける 日野 恭英(18歳 高校生)

 バスケットボールを始めたのは小学校五年生の頃だ。私の大きな夢。それは、NBA選手として活躍することだ。高校三年生になって進路を決定する時、少しだけ夢が現実に近づいた。私は来年から海外の大学でプレーする予定だ。ここに至るまでに本当に色々な思いがあった。
 まずは家族との関係だ。実は留学が出来るほど裕福な家庭ではない。高校卒業後は奨学金を得て、日本の大学でバスケットボールをしながらプロフェッショナルへの道を探すつもりだった。大学卒業後は実業団に所属し、安定した職業に就いて家族を助ける。それが「理想」だった。
 しかし、私は「夢」を諦めきれない。そんな時、NBA選手にスキルトレーニングを教えていたクラブの関係者から「奨学金で留学できる学校に推薦するから考えてみないか」と誘われたのだ。そう、チャンスが巡って来たのだ。どうせ奨学金を受けるなら日本でも外国でも同じじゃないか。勇気を振り絞って両親に話した時に、すぐさま大反対されたのだった。
 当然だ。特に父親は「裕福でもないに留学なんて有り得ない!自分のこともロクに出来ない奴がやれるわけないだろ。そんなことを言う奴とは親子の縁を切る!」とまで言われた。それきり父親には口を利いて貰えない。
 「だよな。オレの夢なんて、そう簡単に叶うわけがない。」弱気になっていた時に、ふと思い浮かんだのが小学校時代のコーチの言葉だった。
 「私も年を取ってしまったわ。早く恭英がNBA選手になって活躍する姿が見たいね。」
 彼女は、教え子である私にNBA選手になるという彼女の夢を託していたのだ。
 「NBA選手?なれるわけがないだろう。よっぽどの天才か、ラッキーか、バカなのかの、どれかだよ。堅実に日本の大学へ進んで、将来は日本の会社で働くことが一番、幸せなんだ」と言う。父親の気持ちも理解は出来る。
 でも……。もしかしたら開く事なく萎れる才能かも知れないけれど、それを見つけてくれて期待を寄せてくれるコーチの情熱に応えたい。ずっと心にヒッソリと隠れていた種子が、殻を割ろうと頭をもたげて来たみたいな、そんなドキドキが胸を締め付けてくる。
 私はやっぱり夢を夢のままで終わらせたくない。だから「一度だけチャンスを下さい。」生まれて初めて親に頭を下げた自分の姿に私自身が驚いた。なんだか惨めな気持ち。でも熱くてギラギラしている闘志みたいな気持ち。
 すると、見かねた母親が突然に言い出した。「息子の気持ちは私が一番解っているわ。私がもっと働いてお金を稼ぐから、どうか夢を叶えさせてあげて。お父さん!」と援護射撃をしてくれたのだ。これは大変なことになった。コーチと母親が両肩に乗っかったんだ!
 私が学んだことは、夢を叶えることは自分一人で奮闘するのではなく、力になってくれる人達との「大きな約束」だということだった。だから、この「約束」を果たす為に私は走り続けなければならないんだ。コートの中を。そして私の人生を。
 相変わらず父親は、私をガン無視している。「留学なんて馬鹿なことをして、失敗して泣いて戻っても知らんからな。勝手にせい。」なんて、私の顔を見ると言っている。私は「そんなの、やらなきゃわかんないや。父さんに俺の人生を決められたくない。絶対に有名になって皆に恩返しするから。」って口答えをする。でも、オレ、知っているんだよ。誰よりもオレのことを心配してくれるのは、父さんだってことも、ね。
 いつか「約束を果たしたよ」と皆に言えるように、今は踏ん張っている自分がいる。誰よりも人一倍練習して、夢を追い続ける。どんなに苦しくても、もう怖くはないんだ。
 私は、たった孤独(ひとり)でプレーしているのではないと、知っているから。