第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2023年
第28回入賞作品

10代の約束賞

縛りと成長 福田 愛璃(17歳 高校生)

 「私の家族は他とは違う。」物心ついたときから私は子どもながらにそう感じていた。両親は兄を二十歳で産み、二人で育て、その二年後に私を産んだ。いざ私が十七歳になってあと三年後には子どもを育てていると考えるとその金銭的、精神的苦労は並々ではないことは理解してもしきれない。父は朝から晩まで仕事で帰ってこない。母は午前中は安定した仕事に就くために勉強し、夜は夜の町に向かっていたのを私は当時から察していた。そうして私と兄は母が作ってくれた冷めた夜ご飯を二人で食べた。二人でお風呂に入り、二人で寝ることもあった。父は亭主関白の気分屋だった。取扱い注意のシールを貼っておきたい。父と母はいつも喧嘩をしていた。父が怒鳴り、母が泣く。兄も泣き叫びながら大の字になって母の前に立つ。あのときは小さな体の兄も大人ほどの大きさに見えていた。私は何もできないが、とにかく「泣かない」と決めていた。私が泣いたら母も泣くことを理解していたからである。これが私たち家族の主な日常。それでも私は父も母も大好きだった。休みの日に遊びに連れて行ってくれて私を笑顔にしてくれる父。毎日おいしいご飯を作り、かわいくて優しいお姉ちゃん兼お母さんの母。ただ、この二人に尋常じゃないほど気を遣った幼少期をすごしたのは事実である。
 私は幼い頃から少々大人びた考えを持っていたのかもしれない。それは留守番担当だった私の友達がテレビだったからだろうか。私は当時から「母の二十代という一番楽しい時期を私が奪ってしまった。迷惑はかけられないし、心配もかけられない。」と非常にませた考えを持っていた。「泣かない。」この四字に全ての想いをのせて頭の中にしまった。母は「強いね。ありがとうね。頼りにしてるよ。」と言ってくれる。私は鼻が高い。嬉しかった。もっと頼りにして欲しかった。支えたかった。
 それから何年も経ってついに高校受験のとき、私は精神的にかなり参っていて、自分との約束を破った。いや、約束のことも忘れているくらい私は私自身をどうしようもできなかった。そしたらやっぱり母も泣いた。そこで私は私の約束を守れなかったことにやっと気づいた。でもその悔しさに浸る前に母のあたたかさで満たされた。久しぶりにこの感じたまんなかった。今まで何をためてたかも分からないけれど全力で吐き出して全力で甘えてみた。はぁ。心の底からスッキリした。負けず嫌いで頑固な私が約束を破るという大失態をおかしたにも関わらず、少々の喜びを感じてしまった。
 私が約束を破ったことによって私は元気になれたが、母はどうだろう。母の気持ちは分からないけれど、絶対的な確信を持って母は迷惑がってはいなかったと思っている。だったらあのときの私の約束は何だったのだろう。意味のないものだったのかもしれないけれど、私にとってそれは、私を強くするためのものだったのではないかと今となっては思う。あのときの自分の約束が今の自分を作ってくれていると考えると、今でもまだ自分を高めるのは自分だと思う。これからも自分を信じて貫くものを貫き通していきたい。
 自分が約束を守れなかったからダメだということではないということを学ぶことができた。今まで我慢していたつもりはないけれどためこんでいたのかもしれない。自分をしばりつづけるものが自分の約束で、それが私を成長させたのだろうか。とても複雑な気持ちで何だかすがすがしい。