第28回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2023年
第28回入賞作品

10代の約束賞

約束の天使 遠藤 豪(12歳 中学生)

 去年、僕は三泊四日の林間学校で日光へ行った。その中の一日は白根山登山、牧場見学、日光彫体験の三つの希望別コースに分かれる。三つのコースの詳細が記されている要項がホームルームで配られた瞬間、僕は白根山登山のコースにしようと決意した。それまで僕は登山をしたことがなかった。一体、どんなに楽しいのか、苦しいのか全く見当がつかない。しかし、登山への憧れから選んだのだ。昔、イギリスにジョージ・マロリーという登山家がいた。「どうして山に登るのか。」と聞かれ、「そこに山があるからだ。」と答えた有名な話を思い出した。
 さあ、それからが大変だった。登山に必要なものは何なのか。どんな服を着ていくのか。どんな靴を履いていくのか。どんなものを用意すればよいのか。僕の目の前には真っ白の壁があるだけ。直前まで、登山があまりにも厳しく今回限りで止めてしまうかもしれないので普段履いているスニーカーで行こうと思っていた。念の為友達に聞いてみた。すると、「登山用の靴を買ったよ。」という人。慌てて母と登山用品を売っているお店へ行った。しかし、そこにあったのはどれも高い靴ばかり。別のお店に行ってみた。そこも同じような値段。(やっぱりスニーカーにすれば良いのかな)と迷う。何とケチな僕だろうか。
 結局、僕はM社の登山靴を購入した。滑り止めが効いているし、頑丈そうで足を守ってくれるような気がして心強い味方となってくれた。
 登山前日の夜、希望別コースに分かれてミーティングがあった。担当の先生が、
「山の天気は変わりやすいから悪くなったら引き返すよ。」(もしそうなったら、せっかく買った登山靴が無駄になってしまう。嘘だろ。)
「落石があるから気をつけるように。」(え、死んじゃうの。怖い。)
と言った。(なんでそんなことを言うんだよ。言うならコースを決める前だろ。)
 しかし、もう引き返すことはできない。靴を買ってしまったのだ。その時、僕は僕と約束をした。絶対諦めずに登山する、と。期待と不安の混じり合った一夜を過ごすことになった。
 夜が明け、いよいよ登山出発の日を迎えた。緊張している僕の気持ちなんて、登山したことのある友達には分からないだろう。
 最初はなだらかな道でハイキングのようだった。え、登山ってこんなに楽なのか。天気も良い。余裕余裕。
 しばらくすると弥陀ヶ池に着いた。そこでお菓子を食べて休憩した。思っていたよりも楽勝で、安心した。
 しかし、弥陀ヶ池を過ぎるとそこからは茨の道だった。一つ一つの岩が大きくなり、足を上げる高さが高くなった。周りには木も無くなり、ふと後ろを振り返ると僕が相当な高さまで登っていることが一目瞭然。遠くには山々が美しく見えた。道幅がぐんと狭まり、道の真ん中を通らなければ落ちてしまうほどになった。今までは手を使わずに足だけで進めたが、もう手と足を限界まで広げなければ進むことができなかった。この時、僕の頭の中に昨夜感じた怖さが急に蘇ってきた。そして先生の言葉が何度も頭をよぎった。早く宿へ帰りたくなった。しかし、周りの友達は弱音を吐いていない。天気が急変すれば良いのに。しかし、空には雲ひとつない。これでは天気の急変など望めない。
 その時だ。目の前に天使が現れた。その名は約束の天使。その天使は、
「昨夜『絶対諦めずに登山する』と言ったよ。
約束はたとえ自分とでも破ってはだめ。」と言った。諦めずに一歩一歩進むとそこはもう山頂だった。僕の心は達成感で満たされた。景色は最高だった。
 なぜ達成感で満たされたのか。なぜ景色が最高だったのか。それは約束を守ったからだ。