第24回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2016年
第21回入賞作品

佳作

サンタとの約束 稲田 光(17歳 高校生)

 小学校六年生の時のクリスマス、涙が止まらなかった。なぜなら、私にとってのサンタクロースがこの世からいなくなってしまったからだ。私のサンタは、願い事をいくつでも、いくらでも聞いてくれた。
 サンタは去る六カ月前、MRIとCTの検査で膵臓癌と診断され、緊急入院することになった。その時、サンタは、私には、「安心してええで。たいしたことないで。」と言った。私はその言葉を信じ、毎日のようにお見舞いに行き、神様に回復を祈った。しかし、サンタの病状は良くなることはなかった。食事の量がかなり減少し、身体が衰弱する一方だった。病院から外泊することができた日、本当は背中が痛くて辛いはずなのに、体力をふり絞り、私の散髪をしてくれた。今まで、ずっとサンタに散髪をしてもらってきた私は、この日も散髪をしてもらいながら、大人になってもしてほしいと心から願っていた。サンタほど上手い美容師にまだ会ったことはない。彼は私にこう言った。「将来、どんなに苦しい状況に立たされてもあきらめたらアカンよ」と。
 これがサンタとした最期の約束だった。
 サンタが亡くなって、すぐに中学受験を控えていた。実際に合格通知を見せる事は出来ないが、心は届くと思い、残り少ない日々を死に物狂いで勉強した。その結果、目指していた中学に合格する事ができた。
 中学校の入学式を終えてすぐのことだった。悪魔が私を死に追いやろうとしていた。それは、脳腫瘍だった。当時、私は、激しい頭痛と吐き気に毎日襲われていた。近所の小児科に診てもらい、胃腸炎だと診断され、薬をもらった。しかし、一向に良くならなかった。おかしいと思った母が、私を脳神経外科に連れて行き、MRIとCTの検査を受けた。そして脳に腫瘍があることが分かった。家族も私も涙が止まらず、言葉を発する事さえもしばらく出来ないほどだった。私は、「自分は十二歳で死んでしまうのか」とつぶやいた。親は私の不安をかき消すために必死で涙をこらえていた。
 すぐに地獄のような闘いが始まった。緊急入院し、緊急手術を行った。手術後がまた最悪の状態だった。少しでも動くと、手術痕の耐えがたい痛みが私を襲った。手術後は集中治療室に運ばれたのだが、この激痛に耐え抜くのは並大抵のことではなかった。痛み以外にも、幻覚と目まいに襲われた。幻覚はこの場にいないはずの家族や友人、言葉で表現できないようなものが見えた。目まいは、私が、歩けるまでに回復しても目の前が真っ暗になってしまうほど、かなりひどい状況だった。この症状が治まりもうこれ以上残酷なことは起こらないだろうと自分自身につぶやいた。だが、その考えは甘かった。
 次は抗がん剤治療と放射線治療が待っていた。抗がん剤治療は私の体力を奪い、ありとあらゆる毛を全て抜きとった。そしていつも食べられていた物が食べられなくなり、高熱を発症させた。放射線治療も色々なリスクを負いながら、行わなければならなかった。辛くて、闘うのを辞めようかと思った時もあった。その時サンタのことを思い出した。サンタは、重病にかかったにも関わらず最期まであきらめず、生きる希望を捨てず立ち向かっていた。サンタとの約束を思い出し、亡くなってしまったサンタのためにも、こんな所でくたばってしまってはいけないと自分に言い聞かせた。すると、自然と体中に消えかけていた闘志が燃え上がり力が湧いてきた。「これは、あの世からサンタがプレゼントを私に贈ってくれたのだ」と感じた。そして無事、悪魔との闘いに打ち勝つことができた。この闘いに勝つことができたのは、家族のおかげもあると思うが、私に闘志をくれたサンタにも感謝している。おじいちゃん、ありがとう。