第24回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2016年
第21回入賞作品

グローバル賞

復活した約束 キョウ エイエイ(21歳 留学生)

 もう三年目の秋だった、あの約束が永遠にかなわなくなると思った日から。曽祖父がこの世を去ったあの日。
 高校2年の中秋節、家族みんなは曽祖父の家に集まって過ごした。塩茹での枝豆、あたたかくて美味しい鴨のスープ、そして小豆あんの月餅。例年と同じだった。ひとつニュースをあげるとすると、それは、叔父さんが新車を買って乗ってきたということだっただろう。
 食事が終わったら、曽祖父が愉快そうにその車を見に行った。とても興味深そうに、エンジンまでチェックした。そして、「今の車って、昔のものとぜんぜんちがってんな。」とコメントした。その時の私はそれを聞いてびっくりした。どんどん話が進み、曽祖父が若い頃、国で最初の自動車工場で働いたことがあることを初めて知った。なんとなくその姿が想像できた。朝日に向かい、自転車に乗って、意気揚々と仕事場に通う、シワも白髪もない曽祖父のこと。そうだ、きっと口笛でも吹いていただろう。その情景を私は不思議だと思った。そして、曽祖父にも子供の頃があったと思うだけでも不思議だと感じた。家族とは言え、実際知らないことはいっぱいあるのではないか。また、曽孫の自分は愛されるばかりでいて、一度もその愛情に対して何かをしてあげようと思うことさえなかった。しかも、その愛情をいつでもくれる曾祖父のことについて、本当は何も知らなかった。「知りたい、ひいおじいちゃんの生涯の話。知りたい!」そう思って心の中で自分との約束をした。「いつかひいおじちゃんと二人で座って、彼の話をじっくり聞いて、彼の若い頃ってどうだったかを全部、全部聞かせてもらう。」
 そして次の中秋節が訪れた。また次の。いつも聞きたい曽祖父の話はずっと聞かないままだった。「でも大丈夫。きっといつかそうするから。」と固く信じていた。
 ちょうど大学に入るその秋のことだった。いつも元気そうな曽祖父が転倒して、病院に運ばれた。それから一週間のうちに、曽祖父はこの世を去った。「もう永遠にかなえられない。あの約束。」
 寂しかった。しかも悔しかった。自分を責めたくてたまらなかった。「あんなに知りたかったのに、なぜひいじいちゃんにちゃんと聞かなかったんだ。もう遅いよ。いくら知りたくても、その話はこれから聞けるものじゃないよ。」その後の日々、同じく暗い気持ちで過ごしていた。
 中国では、家族が他界してから五週間が経ったその日を「五七」と呼び、家族が集まって、死者を追悼する習慣がある。曽祖父の五七の日、みんな同じテーブルを囲んで、ひいじいちゃんのことを思いながら話していた。
 そして初めて知った。曾祖父は村の中で初めての高校生だったことを。当時の家は貧しく、すべての収入は野良仕事に頼っていた。ずいぶん苦労したけれど、無事に卒業して、立派な仕事を見つけ、両親にも恩返ししたことを。
 また、驚いたことに、叔父さんは曾祖父が若い頃たばこ好きだったと言った。とても信じられない。生まれてから一度も曾祖父が喫煙するのを見たことはないからだ。聞いてみると、それをやめるきっかけは、ある日、当時妊娠していた曾祖母がベッドに横たわって喫煙を楽しんでいるひいじいちゃんの姿を見ると腹立て、「赤ちゃんのためし少しは抑えてって何度も何度も言ってるじゃない!」と大喧嘩をしたことだという。
 それらのことを聞いて私は一瞬分かった。「死」はエンディングではない。たとえある人が死んだとしても、彼のこと、彼の物語はまだこの世に残っているわけだ。彼のお気に入りだったレストランに行けば彼の大好物の一品がいつでも食べられるし、彼が歩いた川沿いには彼の足跡もずっとそこにある。また、彼の知りあいに昔のこともまだまだ話してもらえるものだ。だって、記憶は「死なない」、いつまでも続くのだ。その一度「かなえられない」と思った約束は、今になってもちゃんと守っていられる。