第24回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2019年
第24回入賞作品

10代の約束賞

母との約束 岩名 憂樹(13歳 中学生)

 忘れもしない小六の十一月、中学受験も山場を迎えもうひと頑張りだという頃、突然いじめが始まった。
 いつもの通り学校へ行くと上靴がなかった。おかしいと思ったが、あまり深く考えず体育館シューズをはいて過ごしたが、先生の様子は明らかに違った。必死になって探し出された上靴は校舎から一番離れた倉庫の下から見つかった。そしてその頃から仲良しだった六人の態度が一変した。「おはよう」と声をかけると、振り向いたその顔はいつもの笑顔とは違いとても怖い表情だった。「何でだろう」私には訳が分からなかった。「こっち見てくんな」強い言葉をあびせられ、ときには私の方を見てくすくす笑ったり、無視された。私は言葉も出ず、顔を上げることも怖くてどんどん下を向いていった。
 そのとき、「大丈夫。私たちと一緒にいればいいよ。」と別のグループの子が声をかけてくれた。私の凍りついた心がじわじわと温かくなるのを感じた。
 しかし、次の日からか学校へ行くことが憂うつになった。六人のことを気にしないでいようと思い見ないようにもしたが、掃除当番で机をふいたりつったりしようとすると、「やらんでいい」と怒鳴り声がする。仲良くしていた頃に決めた委員会やクラブで一緒になるとそこではいつもひとりぼっちになった。「新しい仲間がいるから大丈夫」と自分に言い聞かせたが、私の体はとても正直で胃がキリキリと痛むようになり、胃薬を持って登校することになった。毎日学校から帰るとバタッと玄関で倒れた。家に入った瞬間に力が尽きるのだ。
 中学受験の勉強にも身が入らなかった。同じ中学校を目指す子もおらず、そもそも受験をする子がとても少ない小学校だった。
 学校であびる言葉はまるでナイフで突き刺すかのように私の心を傷つけた。そしてその恐怖は夢となって現れ、毎晩のようにうなされ、何度も私を苦しめた。
 そんな私に母は「神さまはその人に乗り越えられない試練は与えないんだって。生きていると楽しいことばかりって訳にもいかなくて、辛いことや悲しいこともやってくるね。でも、経験した一つ一つ全てのことが自分の生きていく上での力になるんだよ。大丈夫。一緒に頑張ろうね」そう言って私に寄り添い、毎日抱きしめてくれた。
 母は教頭先生から「いじめをされていることを隠したいとおっしゃる保護者の方もみえますが、どうされますか」と聞かれた際、すぐさまこう答えた。「ゆうきが幼稚園に入るとき"自分がされて嫌なことは絶対相手にもしない"という約束をしました。小学に入るときも同じ約束をしました。この苦しい状況の中でも、ゆうきはそれを守り抜く子です。何ひとつ間違ったことはしておりません。何もはずかしいことはありません。隠すことなど何もありません。」と。
 母の言葉が嬉しかった。頑張ろうと思った。絶対に負けないと思った。この言葉に支えられ、六人に何を言われても何をされても、言い返すこともなく毅然とし続けることを貫いた。そして無事、目指していた中学校に合格し、今とても素敵な友達に恵まれ、楽しく毎日を過ごしている。
 世の中には色々な言葉があふれていて、私たちはどんな言葉も自由に選んで使うことができる。しかし、残念なことに、その中には人を傷つける言葉も沢山ある。これから中学校、高校、大学を経ておとなになっていく上で、また沢山の人と出会い、沢山の言葉を交わす。私を救ってくれた友達や母のように、人を温かい気持ちにしてあげられる優しい言葉だけを使って私はおとなになりたい。そして、幼い頃からの母との約束をこれからも守り抜くことを誓う。