第25回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2020年
第25回入賞作品

佳作

義父母への私の勝手な約束 尾島 亜文(52歳 大学非常勤講師)

 義父と義母は仲が悪かった。私が16年前嫁いできたときは冷戦状態だったが、これまで実戦、冷戦を含めて40数年間戦ってきたらしい。しかし、そんな2人は私に非常にやさしくいつも思いやりを持って接してくれる。義父母の間にもこのような思いやりがあるように、私は2人の関係を改善しようと考えた。
 この思いを夫に言ったら、「そんな無理に決まっている。あなたは昔のことを知らないからそう簡単に言うけど、ありえないだよ。」とあっさり否定された。夫は両親の戦いに巻き込まれて大変な目に遭ったから、いまさら2 人が仲良くなるなんて想像もできないのだ。でも私は同じ経験をしていないし、昔の話を聞かされても、実感が湧かないので無理なんて思わない。「工夫すれば2人の関係修復は不可能ではない。」と私は夫にしつこく言うと、「やりたいならやってみたら。」と淡々と返された。「必ず2人の仲を取り戻す。」これは、私が夫そして義父母への勝手な約束だ。
 2人の仲の修復戦は始まった。まず問題点を突き詰めて解決方法を考えることだ。両親は普段は冷戦状態だが、たまに衝突する場合もあり、その度に近くに住む私たち夫婦は実家に呼び戻される。話を聞いたら、衝突する原因はコミュニケーション不足にあると分かった。2人は普段ほとんど会話しない、何かあるときには相手に「はい」か「いいえ」かの結論だけを求めて、話を聞かないため、すぐに喧嘩になるのだ。ちゃんと話し合いをすることが関係修復の鍵だと思った。
 問題はその方法だ。直接に「お互いに話してください。」と言っても効果を得られないので、私が真ん中に立って、2人のコミュケーションの橋になることを思いついた。義父からしっかり話を聞いて、義母に伝える、そして義母から聞いた話を義父に伝えるようにする。肝心なのはその伝え方だ。義父からいくら義母への不満を聞いても、決してそれを義母に言わず、逆に「お父さんはお母さんの料理がとても美味しいと言っている。」と誉め言葉しか言わない。同じように義父には義母の文句を絶対に言わず、「お母さんはお父さんに感謝しているよ。」と伝えるようにする。最初は2人とも「そんなことを言うわけがない。」と信じてくれなかった。しかし、数年間ずっとそういう風に伝え続けると、徐々に2人とも表情が穏やかになり、相手に声をかける気になって、しだいに2人の会話が増えてきた。
 もう一つの作戦は高テンション攻撃である。冷戦が続いたため、実家の空気がひんやりしてうす暗かった。とにかくテンションをあげて熱量で冷え込んだ関係を溶かすことが重要だ。実家に帰るときに、いつも玄関で大きな声で「こんにちは!」と叫ぶ。最初はびっくりされて戸惑った顔をしていたが、めけずに叫び続けると、「借金とりが来たと思った。」と父は嬉しそうに冗談を言うようになった。また、2人の好きな物を差し上げる「わいろ作戦」や誕生日、父、母の日などを盛大に祝う「イベント作戦」も長期戦で続けてきた。
 作戦はおおむね成功した。今では義父母から相手への不満を聞かなくなり、思いやる言葉が聞こえてきた。2人の仲は私が思い描いたもの以上に良い関係になっている。そして2人そろって笑顔で「あなたのおかげだ。」と言ってくれた。私は心から喜びを感じた。
 一方、静かに見守るだけで作戦に参加していない夫は「昔のことを考えたら、今の2人の穏やかな風景はありえない。どうしてこんなことができたの?」と聞いてきた。
 「それは、私が外国人だからだよ。外国出身で異文化のため、先入観にとらわれることなく、『常識はずれ』の発想が湧き、お構いなく『ざつに』他人の仲に口を出し、自分勝手の約束をし、『乱暴な』作戦ができるからだ。」と私は夫の質問にこう答えた。
 「異文化を持つ外国人と結婚すると、こんなメリットもあるか!」と夫は嬉しそうだ。