第25回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2020年
第25回入賞作品

プロミスお客様サービスプラザ賞

今こそ約束を 上ヱ地 奏葉(13歳 中学生)

 その日は、あまりにも突然にやって来た。母から、私のキッズケータイに
「三月二日から学校休みだって。」
とメールが入ったのは、二〇二〇年二月末のことだった。私は、きっと東京とかの話だろうと思っていた。ところがそれは違っていて家に帰ると、安倍首相がテレビで会見をしていて、全国の小中学校が休校になると知った。信じられなかった。いや、信じたくなかった。なぜなら、小学校卒業まで二週間余りの日々を奪われてしまうことなんて考えてもいなかったからだ。
 翌朝になってもまだ半信半疑のまま、学校へ行くと会話の話題は休校のことばかり。友達も不安を隠せず、中には泣き出してしまう子もいた。そしてその日は、休校が決まる前から予定していた六年生を送る会が行われた。そこで、六年生が本当は卒業式で歌うはずだった歌を、在校生や先生方に披露した。会の終わりに、実行委員の六年生が挨拶をした。
ある男子が、
「僕たちに卒業式をさせて下さい。お願いします!」
と付け加えた。いつもは笑いがいっぱいの六年生を送る会も、その時は涙で終わりを迎えた。
 教室に戻って、私達は先生にたくさんの質問をした。
「先生、明日からもう学校に来れないの?」
「卒業式はどうなるの?」
先生からは、来週月曜日の午前中だけ、諸連絡のために学校があること、卒業式は卒業生と先生のみで行われることが伝えられた。みんな混乱していた。もちろん私も。小学校を卒業したら一人だけ違う中学校へ通うことになっていた私は、六年間という長い時間を共にした仲間達と、こんな形で別れるのかと思うと、とても悲しかった。
「卒業するまでにたくさん遊ぼうね!」
「職員室横のグランドピアノで毎日一曲ずつ弾こうね!」
クラスメートと交わしたいくつもの約束。次々と浮かぶあの子達との約束が、色あせてしまった。
 月曜日の朝、学校へ行くと、黒板に書かれていた「卒業まであと十六日」の文字は、「あと一日、今までありがとう」というものに変わっていた。誰が書いたのかは分からなかったが、その文字には色々な気持ちがつまっているように感じた。そして、ホームルームが始まった。そこで、卒業式で言うはずだった「別れの言葉」の原稿が配られた。先生が配りながら言った
「幻の、別れの言葉かなあ…。」
というセリフが、今でも心に残っている。例年卒業生がこれを言って、胸をはって旅立っていく姿に憧れていたので、言えないのはとても残念に思った。
 休校期間中は友達にも会えず、瞬く間に過ぎ、卒業式当日。例年のような式の練習も一切なかったので、大体の流れと卒業証書のもらい方だけを確認し、本番。なんとか許された保護者のみの参列で、式は静かに始まった。卒業生と在校生が向かい合い、体育館に響くはずの歌のかけ合いもなく、全員マスク姿。こんなに寂しい卒業式になるなんて誰が想像しただろう。それでも、「卒業おめでとう」と近所の一年生の女の子が小さな花束を持ってきてくれたのには涙が出た。嬉しかった。
 誰のせいでもない。新型コロナウイルスという目に見えない恐怖によって一変した私達の生活。田舎の祖父母に会いにいくねとした約束も、卒業までにと友達とした約束も、果たせない。でも、約束は塗り変えられる。それぞれの夢までの道のりの中でどこかで重なるとき、きっと叶えようと心の中で約束した。今まで普通にできたことさえできない。不安の多い世の中だけど、負けてはいけない。新しい中学校という場所で、出会った友達とまた約束をし、前を向いていこうと思う。