2024年
第29回入賞作品
佳作
立派に果たした五十年 宮本 みづえ(75歳 無職)
今年の春に大阪で万博が始まる。
前の万博の時、私は二十歳で婚約中だった。
高校三年の時にクラスメートだった夫からプロポーズをされ、ウンと言って指切りした。
五クラスありクラス替えもあったのに、三年間同じクラスになった男子は二人だった。
その一人だった夫とは気が合い、きっと赤い糸で結ばれているはず、と十七歳の少女は結婚の約束をした。
卒業後彼は大阪へ。私は地元(石川県)の会社に就職した。
当時は携帯もなく文通だった。時々彼から電話があったが、家族がいる居間で私はいつも返事しかできなかった。会社の寮にいる彼に私は一度も電話はしなかった。
そして大阪で万博が始まった。
その頃はどこの会社も社員旅行は大阪の万博と決まっていた。私の勤務する会社もそうだった。
旅行の日時を彼に知らせた。
「一緒に見よな」との返事がきて、待ち合わせの場所を決めた。上司の許可もとった。
当日、彼は私と手をつなぐとサッサと歩き始めた。どのパビリオンに行くのかな? とワクワクしていたら、なんと会場の外に出た。
「寮長夫妻がみーに会うのを楽しみにしとる」
とニコニコ顔の彼。
私の手紙が届く度に、寮長夫妻や同僚達にひやかされていたらしい。
なんで……と腹が立ったが私はまだ乙女。
田舎の芋姉ちゃんの私には辛い対面だった。
次に向かったのは小さな洋食屋だった。
「俺が毎日昼飯を食べてるとこやねん。みーが来るのを楽しみにしとるんや」
私にとってはとても辛い対面だった。
そして次に向かったのが吉本新喜劇。
今は大好きだが、当時の私は吉本なんて聞いたこともなかった。
隣りで声を上げて笑う彼にムカついた。
こんな奴と結婚していいのかな、が少し頭をかすめた。
吉本を出て彼は万博会場まで送ってくれた。
パビリオンを全く見てない私に、
「久しぶりに彼氏と会えて良かったなぁ」
と、上司や同僚にからかわれた。
会場の外に出たなんて絶対に言えない。
万博見学を全くせずにしょうもない挨拶回りをした彼に腹が立って仕方がなかった。
社員旅行から帰り、ゆっくりと考えた。