第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2024年
第29回入賞作品

10代の約束賞

金魚と私 角田 遥(13歳 中学生)

 優雅に泳ぐ、金魚の姿が一つある。その鱗はライトに照らされてキラキラと輝いている。本当は三つ、あるはずだったのに。
 小学四年生の頃だ。近所であったお祭りに行った。スーパーボールすくい、たい焼き、射的…。目に飛び込んでくるたくさんの光、声、屋台。興奮しながらキョロキョロ歩いていると、私の足は一つの店の前で止まった。それには、「金魚すくい」と書かれていた。「金魚すくいの金魚は弱っているからすぐに死んでしまうよ。」と渋る親に、どうしてもと頼み込んで、やっと叶った金魚すくいだった。
 震える手でポイを持ち、できるだけ水につけないようにして、そっとすくった。そして、すぐに器に入れる。人生始まって以降、初めての金魚すくいなのに、三匹も取れてとても嬉しかったのを覚えている。それが、私と金魚の出会いである。初めて自分のペットをゲットした私であった。
 家に帰ると、大急ぎで餌や水槽を買った。お金が減っても気にならなかった。三匹なのにとても大きな水槽を置いて玄関は、狭く感じた。これを親馬鹿というのだろうか。「すぐ死んでしまうよ。」と言われた金魚は、うちに来て、早くも一ヶ月経とうとしていた。大切にするよ、と約束した。
 しかし、その約束は守られなかった。小学六年生の夏、私は受験勉強が忙しくて、水槽の掃除をしていなかった。(大丈夫だろう)と思っていた自分が甘かった。一匹最初に死んだ。その三十分後ぐらいにもう一匹。もっときちんとお世話しておけばよかった。そう思ってももう遅い。どれだけ呼んでも、もう動いてはくれなかった。残った一匹の金魚が恨めしそうな目でこっちを見ていた。(ああ、自分のせいなんだな)と実感した。私が悲しい気持ちになっていたとき、外では蝉がうるさく鳴いていた。なんだか煽られているようで、惨めだった。私の頬に一筋の涙が流れた。
 私は庭に穴を掘って、金魚を二匹埋めた。「掃除しなくて、ごめんね。」と謝りながら。金魚が一匹の水槽はもとが大きいのもあって、やけにがらんとして見えた。人生初めてのペットをもう、失ってしまった。まだ生きられるはずだった命をふたつも奪ってしまった。うちに来て二年が経とうとする時のことだった。この二つの命は、二回目の夏を越すことはできなかったのだ。
 それから私は、一週間に一度の掃除を欠かすことは無くなった。餌も毎朝必ずやる。これまでもエサはやっていたが、与えるだけで様子を見ていなかった。餌をやる時間が必要だと感じたため、朝も少し早く起きるようになった。少し、とは言っても、朝の数分は貴重だ。早起きがいいということは、私のペットが教えてくれた一つのことだ。餌を食べるのを見ることが毎日の楽しみであり、日課になった。しかし、気を抜いてはならない。気を抜いたら、すぐ死んでしまう。前もそうだった。また同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。
 そうして私は、水槽に土管と水草を入れてみた。金魚は、最初は水草に警戒して近づかなかったが、安心すると、ずっといる。何回見てもいる。気に入ってくれたようだ。初代の土管は、一回も入るのを見ないまま、大きくなってしまい、入れなくなってしまった。今うちにあるのは二代目の土管である。これは、嬉しいことに二回、入るのを見た。それを見た時は、一面に花が咲き誇った気がした。
 意思疎通できないからと諦めたらダメだ。だからこそ、私が考えて行動しないと。命の重みを感じる。生きている時間ができるだけ長く、金魚にとって幸せな時間であることを願っている。そして、その時間を楽しいものにできるかは私次第だ。未来の私、約束だ。楽しい時間をつくっていこう。
 さあ、今日も少しだけ早起きをして餌をやる。これが何十年先も続いているといいな。