第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2024年
第29回入賞作品

10代の約束賞

仲直りの席替え 内野 日愛向(17歳 高校生)

 小学校五年生の夏休み、私は家を出てダッシュで約束の待ち合わせ場所に向かう。歩いて十五分かかるところを今日は九分で着いた。何とか間に合った。時間ぴったりだ。でもまだMちゃんは来ていない。
「せっかく走ってきたのに。」
私はぽつりとつぶやいた。
 十五分ほど経って、暑さで滝のように流れる汗をぬぐっていた時、向こうからMちゃんが走ってやってきた。
「ごめんごめん。いつもより準備に時間がかかっちゃって。」
Mちゃんは時間にルーズな性格で、待ち合わせに遅れることはしょっちゅうあった。それは普段から仲の良い私もわかっていた。しかしこの日は、自分にいつもの余裕がなかったせいか、この炎天下の中待っていたせいか、ついカッとなって言ってしまった。
「いつも遅れて来てるじゃん。これじゃ約束してる意味ないよ。」
言い終えた後、私はハッと我に返った。Mちゃんは黙ったまま。気まずい雰囲気が漂う。
「私、今日は帰るね。」
私は言った。Mちゃんはそれに対して、
「うん。ごめんね。」
と言って、私に背を向け帰っていった。そのとぼとぼ歩く後ろ姿を見て、私も自分の家へと足を進めた。
 家に帰ってからもMちゃんのことや、あの時言ってしまったことへの後悔で頭がいっぱいだったが、学校が始まったら謝ろう、そう思っていた。
 あっという間に夏休みが終わって最初の登校日。私はドキドキしていた。ちゃんと謝れるかな、そんなことを思いながら、重たい足取りで学校へ向かう。教室のドアを開けるとMちゃんはすでに来ていて、友達と話していた。話しかけるタイミングをうかがいながら私も他の友達と話していた。なかなか話しかけることが出来ないまま時間は過ぎ、最後の授業の時間になっていた。今日の最後の授業は学活。席替えだった。一人ひとり教卓に置いてあるくじを引いてそっと開ける。みんなが口々に何番だったかを言い合っている中、私も自分の席を確認する。私は二十番だった。隣は、四番。私は誰かわからないまま新しい席へと移動する。
「あっ。」
私は一瞬時が止まったように感じた。隣の席はMちゃんだったのだ。向こうも隣が私だと気づいたようで、気まずそうに座っている。私は静かに椅子を引き、Mちゃんの隣に座った。自分の心臓の音が相手に聞こえてそうなくらいドキドキしている。しかし、自分が謝れないことに焦りを感じていた私は今しかない、そう思った。まだ子供らしい手を思いっきりグーにして勇気を振り絞って言った。
「Mちゃん!あの日はごめん。私言いすぎちゃって、Mちゃんに嫌われてないかずっと心配で・・・。」
私の言葉を遮るようにMちゃんが言った。
「嫌いになるはずないよ!悪いのはいつも遅刻してる私だから。本当にごめんね。これからは遅刻しないから。約束する。だから、また一緒に遊んでくれる?」
「もちろん!約束だよ?」
私は冗談交じりに笑いながら言った。それから私たちは今まで以上に仲が良く、何でも話せる「大親友」となった。
 約一年経った小学生最後の夏休み。私はあの日と同じ場所、同じ時間で約束をしている。今日は時間に余裕があるが、走って向かっている。早く大親友に会うために。