第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2024年
第29回入賞作品

10代の約束賞

私たちの「約束」 前田 陽菜(16歳 高校生)

 小学校を卒業するとき、離れてしまう友人と約束をした。「卒業したら会えなくなるから手紙のやり取りをしよう。約束だよ。」と。
 無事に卒業式が終わり春休みを迎え文通が始まった。私の世代はほとんどの同級生がスマホを持っており、私とその友人も持っていたので、メールのやり取りもしていた。しかし、メールのやり取りよりも手紙を書いているときの方が心が満ちていくような感覚がした。手紙では、「今日は本を読んだよ。」「明日は旅行に行くんだ。」など他愛のない話を繰り広げていった。そんな私たちの「約束」でのつながりも中学校に入学して、約2年続いた。
 しかし、「約束」、文通をして約3年経った頃、私たちの文通は途絶えた。中学3年生で受験生ということもあり忙しい中手紙を書く暇がなかったのである。だから、私たちが小学校を卒業するときに交わした「約束」についてもしばらく文通をしないうちに忘れてしまっていた。
 ある日、リビングに行くと母が手紙を書いていた。「誰に手紙を書いているの。」と私が尋ねると、「いつもの人よ。」と母は答えた。「いつもの人」とは、母が学生の頃からの、いわば「古き友」というやつだ。2人は今までずっと文通をしてきた仲らしい。そのとき私は文通をしていた友人を思い出した。そして「約束」を忘れていたことに罪悪感を抱き心の中で母に助けを求めながら尋ねた。「二人の文通は途絶えたことは一回もないの。」と。母はしばらく手紙をじっと見て「一回くらいはあったかしらねぇ。たしか中学3年生くらいだったかしら。」と答えた。私は、今の自分と全く一緒の状態だと驚きながら「なんで途絶えたの。」とまた尋ねた。「お互い忘れちゃっていたのよ。急にどうしたの。」と母は言い私の方を見た。途絶えさせてしまった文通をどうすればよいか、「約束」を破ってしまったらどうすればよいか、母なら分かるかもしれないと思い、そのことを説明した。すると母は驚いた顔をして「親子ってこんなに似るものなのね。そうねぇ。約束を破ってしまったのならまた約束をつくりなおせばいいんじゃない。」私はどういうことか分からずに「どういうこと。」と眉をひそめながら疑問形で言った。「紙は破ったらもとに戻らないじゃない。約束も同じよ。だから約束を破ってしまったことを謝って、『また文通をしよう。』と約束をつくりなおせばいいじゃない。私もそういうふうにして、今でもつながっているのよ。」と母は答えてくれた。私は背中をおされたような気がして「ありがとう。」と母に一言残してすぐに2階にある自分の部屋の机へと向かった。スマホのメールでも送れるかもしれないが、手紙の方が気持ちが伝わると思い手紙を書くことにした。引き出しの中にしまっていた便せんと封筒を取り出す。そしてすらすらと文章を書いていった。私たちがまた文通をできるように、つながりが途絶えないように、「約束」で。
 そして、一週間が過ぎたある日。いつも通り学校が終わり、いつも通りの道を歩いて家に着く。そしてポストの中を見てみると、私宛の手紙が入っていた。すぐさまその手紙を手に取り、自分の部屋へと向かう。そして、かわいい動物のシールをはがし、ドキドキと音を鳴らす胸をおさえながら折りたたまれている便せんを開く。そこに書かれてある文章を読むと、「こちらこそごめんね。また手紙を書き合おうね。」といきいきした字で書かれてあった。私は安心して胸を撫で下ろした。「約束だよ。」この言葉が自然と口から漏れていた。