2025年
第30回入賞作品
佳作
祖父との約束 松永 果歩(14歳 中学生)
私には祖父との大切な約束がある。それは、「祖父が運転免許を返納したら、祖父の『人生で最後の車』を私が引き継ぐ」というものだ。
この約束をしたのは、二年前、祖父が自動車を買い替えた時だ。以前から、自動車の車種に興味を持っていた私は、祖父と二人で自動車のカタログを眺めながら、「この車かっこいいね。」「この色いいよね?」などと、楽しく会話していた。祖父とは気が合い、昔からいろいろな話をしてきた。祖父も私も自動車が好きなので、祖父が購入する自動車の車種を決めるときには、特に会話が弾んだ。そして、購入する自動車を決めたときに、「私も将来、こんな車を運転したいな」と言うと、「じゃあ、おじいちゃんが車を運転できなくなったときに、この車を譲ろうか。」という提案をしてくれた。そのため、祖父が購入する自動車の色は、私が好きな色にして、様々なオプションをつけた。その頃の私は、祖父が「自動車を運転できなくなるとき」をあまり気にすることはなかった。
「これが人生で最後の車になるなあ。」
納車を待つ祖父がつぶやいた。私は、なんだか切なくなり、何も言うことができなかった。祖父には、もっといろいろな自動車を運転していてほしい。その自動車に私も乗せてもらい、もっとたくさんの場所へ一緒に出かけたい。私はこれから運転免許を取得して、この自動車を運転できるようになるときが楽しみで仕方がないが、祖父はどうなるのだろうか。
祖父は、日常生活の中で、自動車を利用する機会が多い。例えば。祖父の実家に行くときだ。祖父は、鳥栖にある実家の庭の手入れや、家の片付けなどを、たった一人でこなしている。佐賀市から鳥栖市までの移動には自動車が欠かせない。また、祖父は、私たちのためにも、ほぼ毎日、自動車を運転している。私の妹が小学校から帰ったときに一人にならないように、私たちの家へ来てくれる。このように祖父は毎日自動車を利用しており、日常生活で欠かせない存在となっている。
ニュースなどで、アクセルとブレーキの踏み間違いで高齢者が引き起こしてしまった事故が報道されているのを目にしたことがある。現在、祖父の年齢は七十二歳で、まだ足腰はしっかりしているし、これからもしばらくは自動車を運転して生活していくことになるだろう。私は、祖父に事故を起こしたり、事故に遭ったりしてほしくない。安全面を考えると、やはり免許返納は早めにするべきだと思う。だが、楽しそうに自動車の機能や特性を私に聞かせてくれる祖父の様子を見ていると、このままずっと自動車を運転していてほしいとも思ってしまう。祖父にとって、自動車は身近な存在であり、自動車を運転できなくなってしまうと、自分一人で気軽に出かけることもできなくなってしまう。いつか祖父が免許返納をして運転をしない生活になったとき、祖父は、自動車を運転することができないことにもどかしさを感じて、落ち込んでしまうのではないだろうかと、私は心配だ。
何年後になるのかわからないが、祖父が免許を返納する。その時が来たら、私はもう祖父が運転する自動車に乗せてもらうことはできない。だから、今度は私が運転免許を取得して、祖父の行きたいところへ祖父に譲ってもらう自動車に乗せて、祖父を連れて行ってあげたい。幼いころ、祖父が自動車で色々な場所へ連れて行ってくれたように。その時になったら、私が祖父に恩返しする番だ。祖父の「人生で最後の車」を、私の「人生で最初の車」として引き継ぎ、私が運転席に座る。助手席には祖父を乗せて、大好きな自動車の話をしたり、色々な場所へ出かけたりすることが楽しみで仕方がない。祖父にも、その時を楽しみに待っていてほしい。
